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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

彼女への手紙

              ≪八月十九日≫    -壱-



      靖子へ!



  どうした事か、今日は朝五時に目が覚めてしまいました。


  目の前に天井があって、ベッドに座ると頭がつかえそうです。


  僕のすぐ下では、仲間の中で一番のノッポである新保君が眠ってい

ます。



  部屋の中は乱雑で、昨日の夜食べたオレンジの皮とか、酒の空

き缶がそこいらに転がっています。


  でも、この方が皆落ち着くみたいです。



  あまり早く起きすぎたので、先日出した君への便りのことを想

ってみたり、この旅に出る前の自分と言うものを考えたりしてボンヤリして

います。


  こうやって、ベッドで何もせず横たわっている時間を持つと、又君

に手紙を書きたくなってきました。



  人間というものは、孤独に耐えられないようにできているんで

しょうか?


  こうやって旅を続けていても、誰かに僕がこうして生きていると言

うことを、知っていて欲しいのかも知れません。


  異国を旅している僕が居ると言う事を、君だけには意識していて欲

しいのです。



  これからも、何度も何度もこうして君に呼びかけますが、どう

か弱い人間だなどと決め付けないで下さい。



  そうだ!


  今日は、次の訪問国タイ国のビザができてるはずです。


  今日の仕事は、そのビザを貰ってくることと、銀行へ行ったり、病

院を探したりすることぐらいかな。


  病院と言っても、予防注射のことですから安心してください。



  まだ船酔いと、ちょっとした下痢があったぐらいで、今の所元

気で旅してます。


  これから行く国は、下痢など病気のうちに入らないほどですから、

気をつけなくてはいけないのですが、友達に貰ってきた抗生物質があります

ので、多分?大丈夫だと思います。


  この抗生物質なかなか効くんです。



  もう8時半です。


  そろそろ香港の街に出てみます。


  ビルのすぐ下に、いつも利用している食堂があります。


  今日の朝食は、食パンにミロ。


  これで、75円なり。



  朝は、あまり食欲がないのですが、これからの旅の事を考える

と、栄養だけは取って置けるときに取っておきたいものです。


  ここからタイの領事館まで歩いて行けないことはないのですが(今

までそうしていたのですから)、窓口が閉まらないうちに(午前中)行かな

くてはと、マイクロバスに乗る事にしました。



  定員14名ぐらいの小さな乗合バスで、満席になるとそれ以上は

乗せません。


  バスの前には、大きな紙に行き先が書かれていて、それを見るとバ

スのルートが解るらしいのですが、僕にはさっぱりわかりません。


  それでも、これと言って決められたバスストップがないので、何処

でも乗れるし、何処でも降りられるのが、このバスの良いところなんです。


  昔の僕の田舎もそうだったような気がします。



  だから割と便利な乗り物なんです。


  ただ料金が、50¢とちょっと高めなのですが、日本円にすると30円

ぐらいなもんですから・・・・・日本に比べれば安いもんです。


  (電車や二階建てバスは30¢)



  僕は”大丸”と日本語で書かれたバスに乗り込みました。


  大丸は日本の百貨店ですが、まだ一度も行った事がないのです。


  ここからはちょっと遠すぎるのと、めんどくさいからなんでしょ

う。


  他の仲間も誰も行きたいと言う奴は居ないのです。



  泰国大使館の開館時間は10:00~12:00、14:50~16:50、の4

時間しかありません。


  これは何処の国でも似たり寄ったりなんですが、我々旅行者には親

切だとは思いません。


  何処の公務員もこんなもんなんでしょうね。



  この日は、開館時間内に行ったのですが、ビザの係りの人が外

出していて、代わりの人もいないという始末です。


  他の人に探してもらうのですが、何処に置いているのかわからない

と言う事でした。


  ただ受け取るだけなのに、かなりに時間待たされてしまいました。



  しかし、この日はそれが幸いしたのでしょう。


  台湾で別れたもう一組の仲間とバッタリあったからです。


  彼らはIYCAに泊まっているという事でした。


  鉄臣は相変わらず汚い格好をしていて、相棒を泣かせているようで

した。



  あまり長い間待たされるので、先に予防注射を打って置こうと

いうことになり、大使館を一度出る事にしました。


  これからの旅で心配なのは、急性肝炎と言う病気です。


  東南アジアやインド・中近東では、これが流行っていてほとんどの

旅行者が、やられると言う噂です。



  症状としては、皮膚の色が浅黒くなり、目が黄色味を帯びてき

て、悪くすると失明してしまう恐ろしい病気だそうです。


  最悪の事態を招かない為にも、予防注射は必要なのですが、こうし

た風土病の実態もあまりわかっていないらしく、これから受けようとしてい

る予防注射も、三割効けば良いほうとか。


  しかし、気分的にも受けていたほうが、良いと言うことで受ける事

にしました。



  この肝炎は日本にもある病気ですが、こちらの肝炎は種類が違

うそうなんです。


  こいつにやられると、一生治らないということですから、厄介な風

土病です。


  それでも、かかった事があると言う人に、話を聞いてみると、早く

日本に帰って栄養を十分に取れば、生活する分には大丈夫と言う事ですか

ら・・・・大丈夫でしょう。



  薬の名前を頼りに、赤十字病院などに押しかけたのですが、扱

っていないとの事でした。


  結局、プライベート・ドクターに行ってみたらという事で、また香

港の街を歩き回ることになりました。


  暑い日射しの中・・・・・これには参りました。



  この医者の看板と言うのが、実に見つけにくく、やっとのこと

で見つけても追い返される始末。


  この医者の玄関と言うのがひどいもんで、どっかの団地の玄関とそ

っくりなんです。


  ドアは鋼鉄でできていて、鍵は中から(当たり前ですが)いくつも

掛けられていて、ブザーを押しても小さな覗き穴から覗いてくるだけで、す

ぐに開けようとしません。


  治安の悪い香港のことですから、我々をどこかの盗賊に見間違えた

のかも知れませんが・・・・・何しろ汚い格好をしていましたから。



  とうとう我々も諦めてしまいました。


  なんと言う事でしょう。


  この後も、大使館の開館が14:30からですので、それまで街の中を

ブラブラ歩く以外他にやる事ないし、何とも冴えない一日になってしまいま

した。


  言葉の通じない悲しさなのでしょうか。



  14:30、やっとのおもいで泰国のビザを受け取りました。


  手数料がバカに高くて、20香港$。


  日本円にして、1200円ですよ!


  あっという間に、両替した香港弗がなくなってしまいました。


  また、銀行でTCを切る羽目になってしまった訳です。



  銀行は15:00閉館ですから、危なく閉め出される所でした。


  銀行では、守衛のようなおじさんが一人いて、手にはショット・ガ

ンが一丁しっかりと握られています。


  あんなので撃たれたら、身体はバラバラになってしまう事でしょ

う。


  こういうことがないだけでも、日本は暮らしやすい国なんでしょう

かね。



  今日ばかりは大使館員に振り回された一日で、歩き疲れてしま

いました。


  政男たちはIYACに戻り、我々も5:30頃には部屋に戻ってきました。


  部屋に戻るとまた君の事を考えてしまいます。


  日本から持ってきたラジオからは、沢田研二の英語版とか山口百恵

の”横須賀ストーリー”が流れています。



  そうそうTVでは”太陽に吠えろ”が映しだされていました。


  もちろん広東語の吹き替えでやっていますから、見ていても何をや

っているのか、さっぱり解らないのですが、まあまあ楽しめることができま

した。


  映画なども盛んですが、日本はいつも悪者扱いです。


  我々がアメリカ映画を見ると、いつも悪者はドイツ兵か日本兵なの

と一緒で、香港の人たちもそんな映画を見て楽しんでいるのでしょう。



  これから少し眠って、いつものところで夕食を取り、雑談をし

てまた眠ることになるでしょう。


  今日も暑い一日でした。


  昼間に一度、パラパラと雨が落ちてきたのですが、空は青いまま。


  何処に雨雲があったのかと思うほどの雨でした。



  日本では今頃夏祭りも終わり、長期休暇明けの仕事が始まった

ばかりでしょうね。


  これから少しずつ暑さがしのぎやすくなってくる事でしょう。


  逆に僕はこれから暑い国を彷徨うことになります。


  季節の変わり目、どうか身体には十分気をつけてお過ごしくださ

い。



  旅に出てまだどれだけもたっていないというのに、もう日本の

ことが恋しくなっています。


  それもこれも、あなたが住んでいる日本だからでしょう。


  これからの道中、日本からの便りがどれだけ僕を励ましてくれる事

か。


  どこかの街角で、あなたからの便りに逢える日を楽しみにして、旅

を続ける事にします。



  それでは、今日はこの辺で!!



     追伸;  あなたへの第一報、25日頃には届くでしょ

う。


          そしてあなたを悩ませることになるでしょう。


          タイであなたに逢える事を楽しみにしています。


          これからの旅に勇気を与えてくれる便りを期待し

ています。


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